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初等集合論からの準備

このセミナーではブール代数(Boolean Algebra) の理論について勉強していきたいと思います。
理論に重きを置き,時に演習を行います。
J. D. Monk 著の Mathematical Logic (GTM37) (Springer-VerlAg) のブール代数の章 (20ページ)をベースにして,一緒に勉強して行きましょう(私自身,ブール代数の専門家ではないので).

皆さんは,意識的にあるいは無意識のうちにブール代数にはすでに何らかの形で出会っていると思います。
論理回路を通じて,集合の演算を通じて,あるいは命題論理等を通じてです。
しかしながら,ブール代数を数学における代数学としてきちんと習ったことはないのではないでしょうか. 今回のセミナーの目的は,そこにあります。
つまり,ブール代数を数学における代数学としてきちんと理論的 に学ぶということです(数理論理学者の目を通じてということですが).私はブール代数を奥が深い数学の 一分野だと思っています。

ブール代数における代数構造は命題論理と親密な関係にあります。
また,それには応用があります(論理回路等). ブール代数は初等集合論から最も簡単に動機付けできるでしょう.

[定義1]
(その1)
集合の体(field of sets) $A$ とは,次の性質(1)-(3)を満たす集合である:
  1. $\cup A \in A$
  2. 任意の $X \in A$ について, $\cup A \sim X \in A$
  3. 任意の $X, Y \in A$ について, $X \cup Y \in A$. またこのとき,$A$$\cup A$ の部分集合の体という.
(定義1の終わり)

ここで,若干の記号の説明と約束をします。
まず記号のお約束.$A,B$ を集合とするとき,

\begin{displaymath}A \cap B,A \cup B,A \sim B\end{displaymath}

をそれぞれ,共通部分(積集合),合併(和集合),差集合とします。
$(B \subseteq A$ ならば, $A \sim B$$A$に関する $B$ の補集合といいます。
$A-B$という記号法も普通に用います。
ある集合 $A$ 内だけで考えているときは, $A \sim B$ を単に $B^c$ と書き, $B$ の補集合といいます。

$\cup A$」という記号は,公理的集合論の方からの記号法です。
公理的集合論は,広い意味での数理論理学(Logic)の一部分で等号を含む 1階古典述語論理に基づいて公理的に集合論を展開する学問です。
非常に高度に発達している分野です。
大雑把にいって,その根底の考え方の一つは,数学的対象の全てを集合として考える,ということです。
$\cup A$ の説明に戻ります。
つまり, $A$を集合とすると, $A$ の和(あるいは和集合) $\cup A$$A$ の要素の要素全体からなる集合です。

\begin{displaymath}\cup \{ A,B \}\end{displaymath}

を特に $A \cup B$ と書きます。
だから公理的集合論では, $\cup A$$\cup $ 方が $A \cup B$ で使っている $\cup $ より上位概念ですね.例えば,

\begin{displaymath}A= \{ \{ 1,2 \}, \{ 7,3 \}, \{ 3,5, \{ 4 \} \} \}\end{displaymath}

のとき,

\begin{displaymath}\cup A= \{ 1,2,3,5,7, \{ 4 \} \}\end{displaymath}

です。
このブール代数のセミナーでは,公理的集合論を表にはあまり出しませんが,記号法などに その香りが表われています。
とにかく,基本的な用語も含めてわからなければどんどん質問してくださいね

集合の体$A$とは, $\cup A$ に関する補集合と合併をとる演算に関して閉じている集合であるといえます。
すこし表現を変えれば,集合の体 $A$ とは, $A$ の要素の要素全体からなる集合 $\cup A$ を全体と考えて,その部分集合につい ての( $\cup A$ に関する)補集合と合併をとる演算に関して閉じている集合です。

「閉じている」について説明します。
まず,例で言った方が速いでしょう.
${\bf Z}$ を整数全体の集合とします。 ${\bf Z}$ の 任意の要素 $x,y$ について, $x+y$ がまた ${\bf Z}$ の要素となるとき, ${\bf Z}$ は加法+について(に関して)閉じているといいます。
${\bf Z_p}$ を正の整数全体の集合とします。 ${\bf Z_p}$ の任意の要素 $x,y$ について, $x-y$ は必ずしも ${\bf Z_p}$ の要素とはなりません.
例えば $3-5=-2$ ですから. $Zp$ は減法−について閉じていません.ところが,${\bf Z}$ は当然,減法−について閉じています。
一般の場合は,

[一般の場合]
一般に,集合 $S$ について,$\alpha$ を直積 $S \times S$ から $S$ への写像とし,

\begin{displaymath}(x,y) \in S \times S\end{displaymath}

$\alpha$ による 像

\begin{displaymath}\alpha (x, y)\end{displaymath}

($x \alpha y$ とも書く)がまた $S$ の要素のとき,集合 $S$ は1つの算法 $\alpha$ をもつ代数系,あるいは略して $\alpha$ 系 といいます。
集合 $S$ はその $\alpha$ 系の台集合といい,このような $\alpha$$S$ における二項算法といいます。
$S$$\alpha$ 系とします。
$T$$S$ の部分集合とするとき,(任意の $x,y$ について(数学の本ではこれがはぶかれて 暗黙のうちに仮定されていることも多い),)

\begin{displaymath}x,y \in T\end{displaymath}

ならば

\begin{displaymath}x \alpha y \in T\end{displaymath}

となるならば, $T$$\alpha$ に関して閉じているといいます。
このとき,写像 $\alpha$$T \times T$ への制限 $\alpha_t$ を考えると, $T$$\alpha_t$ 系となります。
$\alpha$$\alpha_t$$T$ の要素に関しては同じ効果を持つので, $T$ もまた $\alpha$ 系と呼ぶのが普通です。
このとき, $T$$S$ の部分 $\alpha$ 系といいます。
したがって,当然 $S$$\alpha$ に関して閉じています。

[一般の場合の説明終わり]

[命題2]
$A$ を集合の体とする.そのとき,次が成立する.
  1. $0 \in A;$
  2. もし $X, Y \in A$ ならば, $X \cap Y \in A.$
(命題2の終わり)

命題2で $0$ は空集合を表します。
つまり,集合の体 $A$ は空集合を要素に持ち,演算 $\cap $ について閉じている集合ということです。
それではさっそく演習です。

(演習1)
命題2を証明しなさい.
(演習1の終わり)


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Yasunari SHIDAMA