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双対原理についての補足

任意のブール代数の関係式 $\psi$ について: 「公理系 $T$$\psi$ が証明可能」$\Rightarrow$$\psi$ に現われる全ての $+, \cdot ,0,1$ を逆転した関係式 $\psi_d$ もまたその公理系 $T$ で 証明可能」が(式に関して限定した形での)正しい形です。

我々のブール代数 ${\cal A}=(A,+,\cdot,-,0,1)$ の公理系を $T$ とし,そこから, $+, \cdot ,0,1$ をそれぞれ $\cdot,+,1,0$ に入れ替えて作った $(A,\cdot ,+,-,1,0)(({\cal A})_d$ とする)用の公理系を $(T)_d$ とします。
このとき,

「公理系 $T$$\psi$ が証明可能」$\Rightarrow$「公理系 $(T)_d$$\psi_d$ が証明可能」(*)

であることがわかります(これは厳密にやろうとすると,数理論理学の枠組みで,証明の長さによる 帰納法で証明すべきしろものです。
でも,これはそれほど厳密にやらなくてもわかりますから, 普通,証明は省略しているのです。
これはだいたい命題5から推測できます。
) ((*)の仮定は ${\cal A}$ で,結論は $({\cal A})_d$ で考えていることに注意.)また, $(T)_d$${\cal A}$ からみれば $T$ と同じ公理系であり, $\psi_d$${\cal A}$ の関係式とみて, (また厳密にいえば,証明の長さによる帰納法によって)

「公理系 $(T)_d$$\psi_d$ が証明可能」$\Rightarrow$「公理系 $T$$\psi_d$ が証明可能」(**)

がいえる. ((**)の仮定は $({\cal A})_d$ で,結論は ${\cal A}$ で考えていることに注意.)従って,(*)と(**)から

「公理系 $T$$\psi$ が証明可能」$\Rightarrow$「公理系 $T$$\psi_d$ が証明可能」

が成立する.

もっと一般に,式に限らず,文(命題)についても双対の原理は成り立ちます。
上の式に関することも文(命題)として取り扱うことができるので (例えば, 「 $x \cdot x=x$ が成立する.」等),もう一度,一般的な形で述べておきます。

(ブール代数における双対の原理) $\psi$ が全てのブール代数で成立する命題ならば,その双対命題 $\psi_d$ も全てのブール代数で成立する.

[証明]  例によって,証明のスケッチです。
ブール代数 ${\cal A}=(A,+,\cdot,-,0,1)$ について,そこから, $+, \cdot ,0,1$ をそれぞれ $\cdot,+,1,0$ に入れ替えて作ったブール代数を $({\cal A})_d =(A, \cdot ,+,-,1,0)$ とする(命題5より).同じやり方で $({\cal A})_d$ から, ブール代数 $(({\cal A})_d)_d =<A,+, \cdot ,-,0,1>$ を作ると, $(({\cal A})_d)_d$${\cal A}$ と等しくなる.さらに(何らかの帰納法により), 「 $\psi$${\cal A}$ で成立する」と,「 $\psi_d$$({\cal A})_d$ で成立する」は同値であることがわかる.ここで, $\psi$ が全てのブール代数で成立する命題と仮定する.
任意のブール代数 ${\cal A}$ について,仮定から $\psi$$({\cal A})_d$ で成立する. 従って, $\psi_d$ $({\cal A})_d)_d$ で成立する.これは, $\psi_d$${\cal A}$ で成立することを意味する.

[証明のスケッチ終わり]

上の双対命題 $\psi_d$ というのは, $\psi$ からその中に含まれる全ての $+, \cdot ,0,1$ をそれぞれ $\cdot,+,1,0$ で置き換えて作った命題です。

ブール代数における双対の原理を言い換えれば,(ブール代数における双対の原理) 「命題 $\psi$ がブール代数についての定理ならば,その双対命題 $\psi_d$ もブール代数についての定理である.」ということもできます。

双対の原理を適用するにあたって,少し注意することを述べます。
例えば, $x \cdot y \leq x+y$ は全てのブール代数について成立します(記号は適当に変えて.
ところが,これに双対の原理を直接適用して, $x+y \leq x \cdot y$ は間違いです。
$x+y \leq x \cdot y$ は一般には成立しません.というのは, $\leq$ は略号なので, $x \cdot y \leq x+y$ というのは $x \cdot y+(x+y)=x+y$ の略記です。
従って,双対の原理を正しく適用した結果は, $(x+y) \cdot (x \cdot y)=x \cdot y$ です。
これは,一般的に成立するブール代数の式(定理)です。
ですから,双対の原理は適用する前に略記等がその命題か式に含まれていれば,それをもとの形に 直してから適用しなければなりません.ちょっと注意が必要ですね.


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Yasunari SHIDAMA