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記号表現

数学などの自然科学や工学の分野では,ニュートンヤライプニッツの積分記号のように,事物や事物の性質を表すのに記号を用いてきました。
それらの歴史は,考案され使われてきた記号の歴史といっても良いぐらいです。  集合論は「ものの集まり」である集合を扱いますが,集合とその要素を表したり,集合と集合,集合と要素,要素と要素の関係を表すのには記号を用います。この教材で用いる記号は以下のものです。

  1. 集合やその要素を表す文字や数字 これは例えば


    \begin{displaymath}A,B,\cdots,Z,a,b,c,\cdots,z, A,B,\cdots,\Omega,\alpha,\beta,\cdots,\omega\end{displaymath}


    \begin{displaymath}0,1,2,3,\cdots\end{displaymath}

    などです。
  2. 集合と集合,集合と要素,要素と要素の関係を表す関係記号 これには以下のような記号があります。

    \begin{eqnarray*}
&&=~~~~「…と…は等しい」\\
&&\le~~~~「…は…より小さい」...
...~~~~「…は…の要素」\\
&&\subseteq ~~~~「…は…の部分集合」
\end{eqnarray*}

  3. 論理記号

    \begin{eqnarray*}
   &&\not~~~~~(あるいはnot) 「…でない」\\
&&\land~~~~~...
...…が成立つ」\\
&&\exists~~~~~「ある…が存在して…が成立つ」
\end{eqnarray*}

  4. 補助的な記号

    \begin{eqnarray*}
   &&(,),[],\{, \}\\
&&\rightarrow,\mapsto,\cap,\cup,\prod
\end{eqnarray*}

集合や集合の性質を表すには,これらの記号は単独で使うのではなく,

\begin{displaymath}x=y,x \in Y,X \subseteq Y\end{displaymath}

のように記号を並べた記号の列を用います。ここでは,その列を「式」と呼ぶことにします。

式には,集合やその要素,すなわち何かの対象を表すものとして対象式があり,
また,それらの対象と対象の間の関係を表す関係式があります。関係式は論理式とも呼ばれます。 対象式や関係式は以下のように組織的に作られます。
まず対象式は次の通りです。

  1. 集合やその要素を表す文字は対象式。

  2. \begin{displaymath}{\cal X}_1,{\cal X}_2,{\cal X}_3,\cdots,{\cal X}_n \end{displaymath}

    $n$個の対象式のときそれらを要素として含む集合を表す

    \begin{displaymath}\{ {\cal X}_1,{\cal X}_2,{\cal X}_3,\cdots,{\cal X}_n \} \end{displaymath}

    も対象式。
  3. 関数の定義は後で述べますが,${\cal F}$$n$変数の関数を表し,

    \begin{displaymath}{\cal X}_1,{\cal X}_2,{\cal X}_3,\cdots,{\cal X}_n \end{displaymath}

    $n$個の対象式のとき

    \begin{displaymath}{\cal F}({\cal X}_1,{\cal X}_2,{\cal X}_3,\cdots,{\cal X}_n)\end{displaymath}

    も対象式。
  4. $R$が関係式で$x$$R$の中にでてくる文字のとき

    \begin{displaymath}\{ x \vert x \in A ~and~ {\cal R}(x) \}\end{displaymath}

    は対象式。
これら以外にも

\begin{displaymath}{\cal X} \cap {\cal Y},{\cal X} \cup {\cal Y}, \prod {\cal F}\end{displaymath}

などがありますが,これらは,その定義と供に後の章で説明します。

関係式については以下の通りです。

  1. ${\cal X}$${\cal Y}$が対象式のとき ${\cal X}={\cal Y}$は関係式
  2. ${\cal X}$${\cal Y}$が対象式のとき ${\cal X} \le {\cal Y}$は関係式
  3. ${\cal X}$${\cal Y}$が対象式のとき ${\cal X} \in {\cal Y}$は関係式
  4. ${\cal X}$${\cal Y}$が対象式のとき ${\cal X} \subseteq {\cal Y}$は関係式
  5. ${\cal P}$が関係式なら $\lnot {\cal P}$ も関係式( ${\cal P}$でないと読みます)
  6. ${\cal P}$が関係式なら ${\cal P} \land {\cal Q}$も関係式 ( ${\cal P}かつ{\cal Q}$と読みます)
  7. ${\cal P,Q}$が関係式なら ${\cal P} \lor {\cal Q}$ も関係式 ( ${\cal P}または{\cal Q}$と読みます)
  8. ${\cal P,Q}$が関係式なら ${\cal P} \Rightarrow {\cal Q}$ も関係式 ( ${\cal P}ならば{\cal Q}$と読みます)
  9. ${\cal P,Q}$が関係式なら ${\cal P} \Leftrightarrow {\cal Q}$ も関係式 ( ${\cal P}と{\cal Q}は同値$と読みます)
  10. ${\cal P}({\cal X})$が関係式で,${\cal X}$ ${\cal P}({\cal X})$の中に現われる文字, ${\cal Y}$が対象式なら ${\cal P}({\cal Y})$ も関係式
  11. ${\cal P}({\cal X})$が関係式で,${\cal X}$ ${\cal P}({\cal X})$ の中に現われる文字なら $(\forall {\cal X}){\cal P}({\cal X})$ も関係式 (すべての${\cal X}$について ${\cal P}({\cal X})$と読みます)
  12. ${\cal P}({\cal X})$が関係式で,${\cal X}$ ${\cal P}({\cal X})$の中に現われる文字なら $(\exists {\cal X}){\cal P}({\cal X})$ も関係式 (ある${\cal X}$が存在して ${\cal P}({\cal X})$と読みます)

以上のような記号表現によって,例えば

「すべての$x$について$x$が集合$A$の要素ならば$x$は集合$B$の要素である。」

といような主張を関係式として

\begin{displaymath}
(\forall x)(x \in A \Rightarrow x \in B)
\end{displaymath}

と表現します。

さて,数学や他の自然科学に限らず,何らかの事物の性質や関係を論理的に捕らえようとすると

\begin{eqnarray*}
&&□□□□でない。\\
&&○○○○ ならば □□□□です。\\ 
...
... かつ  □□□□です。\\
&&○○○○ または □□□□です。
\end{eqnarray*}

とか

\begin{eqnarray*}
&&すべての△△について □□□□である。(でない。)\\
&&ある△△について   □□□□でない。(でない。)
\end{eqnarray*}

といった事物の性質を述べた記述が使われ,また 既に判っている事柄,あるいは証明済みの事柄から, 別の事柄を推理したり,証明したりするのに, 三段論法と呼ばれる推論法

\begin{eqnarray*}
&&○○○○ ならば □□□□である。\\
&&○○○○ であることは既に示した。\\
&&よって □□□□です。
\end{eqnarray*}

や,背理法と推論法

\begin{eqnarray*}
&&○○○○ でないと仮定しよう。\\
&&ところが,これを仮定す...
...る□□□□であることと矛盾する。\\
&&よって ○○○○である。
\end{eqnarray*}

が用いられてきました。

これらの,推論法,「ある事柄が正しいとを証明する方法」あるいは「既に正しいと証明されている事柄から新たな正しい事柄を導き証明する」方法,については古代ギリシャから研究され,その学問は論理学と呼ばれています。ユーグリッドの平面幾何学にも使われています。

  論理学は数学,科学の発達と伴に発達してきました。近年,論理学に,前の節で述べたような記号による表現とともに,数学,特に代数学の手法が取り入れられ,記号論理学とか数理論理学と呼ばれる分野が生まれました。

これを概観しておきます。

例えば,

$x$は1と等しくない。」 という主張について考えてみましょう。 これは,前節の記号表現を用いれば,関係式


\begin{displaymath}
not~ (x = 1 )
\end{displaymath}

で表現されます。 そして, この関係式は,$ x = 1$の真か偽かによって偽になり,真になります。

また, 「$x$が1と等しくかつ$y$は1と等しい」 は,関係式

\begin{displaymath}
(x = 1 )~and~(y = 1 )
\end{displaymath}

で表現されます。

この関係式は,$ x = 1$$ y = 1$の両方が真のときだけ,真になります。 同様に「$ x = 1$または$ y = 1$である。」 という主張は

\begin{displaymath}
(y = 1 )~or~(y = 1 )
\end{displaymath}

と表現されます。$ x = 1$$ y = 1$のどちらか一方が真なら, 真になります。

全ての対象$x$$ x = 1$という主張を表すには全称記号$\forall$を用いて


\begin{displaymath}
(\forall x)(x=1)
\end{displaymath}

という関係式を用います。 記号$x$が表す対象全体が例えば,

\begin{displaymath}
1,2,3,\cdots,10
\end{displaymath}

で与えられていれば

\begin{displaymath}
(1=1) ~and ~ (2=1)
~and~ \cdots ~and~(10=1)
\end{displaymath}

と定義されるものです。そして,

\begin{displaymath}
(\forall x)(x=1)
\end{displaymath}

が真であるためには,

\begin{displaymath}
(1=1) , (2=1), \cdots, \cdots (10=1)
\end{displaymath}

が全て真である必要があり,例えば$2=1$は真ではないので,この関係式は真ではないということになります。
また, ある特定の対象$x$が存在して$ x = 1$という主張を表すには 存在記号$\exists$を用いて


\begin{displaymath}
(\exists x)(x=1)
\end{displaymath}

という関係式を使います。これも 記号$x$が表す対象全体が例えば,

\begin{displaymath}
1,2,3,\cdots,10
\end{displaymath}

で与えられていれば

\begin{displaymath}
(1=1) ~or ~ (1=2)
~or~ \cdots ~or~(10=1)
\end{displaymath}

と定義されるものです。これが真であるためには

\begin{displaymath}
(1=1) , (2=1), \cdots, \cdots (n=1)
\end{displaymath}

のどれか少なくとも一つが真であれば良いということになります。



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Yasunari SHIDAMA