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: ノルム線形空間
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定義 1.3.1
を線形空間とし,
上に実数値関数
が定義され,
が次の条件をみたすとき
をノルム(線形)空間と定義しました。
このノルムは実数の絶対値の一般化です。
さらにこれを用いて実数の集合や数ベクトル空間の「完備性」の一般化が可能になります。
定義 1.3.2 (Caushy列)
ノルム空間
の点列
がCaushy列(あるいは基本列)
であるとは,
が成り立つことです。
定義 1.3.3
ノルム線形空間
の任意のCaushy列が収束するとき,
は完備(complete)であるといいます。
定義 1.3.4
完備なノルム線形空間をBanach空間といいます。
例1
のノルムを
|
(1.4) |
で定義するとBanach空間になります。
(証明)
ノルム線形空間であるは前節で証明しました。
完備性を示します。
関数列がCaushy列と仮定すると,
|
(1.5) |
です。すなわち任意のに対しては
Caushy列です。従って実数の完備性により
が存在して,
とおくとです。
(証明)
これらより
だから
したがって
ゆえに
(例1の証明の続き)
よって
|
(1.6) |
(1.5),(1.6)より
以上より
これより
よって
のとき
ゆえにCaushy列がつねに収束するので完備です。
例2
のノルムを
|
(1.7) |
と定義するとノルム空間になるがBanach空間にはなりません。
(証明)
ノルム線形空間であることは前節を示しました。
完備でないことを示します。
を
とおけばはこの空間でのCaushy列になりますが,その関数列の極限になっているような連続関数はありません。
したがって完備ではありません。
例3
のノルムを
と定義するとBanach空間になります。これを証明する前に次の定理を示します。
定理 1.3.1
の導関数
からなる関数列
が一様収束するとする。
さらに,
に対して
は収束するとする。
このとき
からなる関数列
は一様収束し,かつ極限関数
は連続微分可能で,関係式
|
(1.8) |
が成り立つ。
(証明)
数列が収束することから
に対して
ならば
|
(1.9) |
また,関数列が一様収束することから,
同一の
について ならば
に対して
|
(1.10) |
となる。
に平均値定理を適用すると,
に対して
したがって(1.9),(1.10)により
以上より,
に対して
ならば
となるような,に無関係である
が存在します。
すなわち,関数列 は一様収束します。
したがって,
が存在します。
関数列は一様収束するので
ところで,と は収束するから
関数列 が一様収束し,各関数 が連続であるから,極限関数 は連続です。
したがって,右辺は連続関数の不定積分として連続微分可能です。
ゆえに,右辺は連続微分可能であって,微分すると
となります。
(例3の証明)
まずノルム空間であることを示します。
例1より
のときゆえに
以上より(正値性),(スカラー倍),(三角不等式)が示されノルム空間となります。
次に完備性を示します。
からなる関数列がCaushy列と仮定すると,
|
(1.11) |
式(1.11)より
とできます。すなわち
はCaushy列です。まず
が存在します。すなわち
|
(1.12) |
同様に
が存在しかつです。すなわち
定理2.1より
|
(1.13) |
(1.12),(1.13)より
ゆえにCaushy列がつねに収束するので完備です。
例4
のノルムを
|
(1.14) |
で定義するとBanach空間になります。
(証明)
まずノルム空間であることを示します。
例3と同様に
ならば(正値性)と(1.14)より.
ならば
以上より(正値性),(スカラー倍),(三角不等式)が示されノルム空間となります。
次に完備性を示します。
帰納法を用いることにしてがBanach空間であるとします。そして,
例3同様に
からなる関数列がCaushy列と仮定すると,
ゆえに,はのCaushy列です。
をBanach空間と仮定したので,
同様に,はのCaushy列であるから例3より,
はのBanach空間になります。
ここで(1.16),(1.17)より,
ノルムの正値性より
より
(1.15),(1.18)より
以上より完備性が示されました。
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Yasunari SHIDAMA